
坂道グループが男性スキャンダルで揺れている。欅坂46の織田奈那さん、日向坂46の井口眞緒さんが週刊誌にスクープされ、現在ともに活動を停止している状態だ。
織田奈那さんは東京ドーム公演を理由なく欠席する事態になっている。公式には欠席理由を発表していないが、先の恋愛スキャンダルの影響であることは間違いないだろう。2019年10月2日現在、 織田奈那さんは沈黙を保ったままだ。
「なぜアイドルは恋愛禁止なのか?」「恋愛禁止ルールの是非」「恋愛禁止ルールは人権侵害しているのか?」「アイドル恋愛禁止文化が変わらない理由」といった問題について今回は考えてみたい。
なぜアイドルは恋愛禁止なのか?
なぜ アイドルは恋愛禁止なのか? その答えはシンプルで、恋愛禁止というラベルを貼った方がアイドルとしての商品価値が上がるからだ。
アイドルは古今東西、疑似恋愛の対象として存在してきた。ファンは恋人に捧げるようにアイドルにお金と時間を消費する。生じるコストは実際の恋愛より多額になることも少なくない。AKB総選挙の例が顕著だろう。
男性がアイドルにハマる理由は様々だが、そこまでハマらせるための一つの手段としてあるのが、恋愛禁止ルールであることは容易に想像できる。
恋愛禁止ルールは、疑似恋愛を成立させるためには重要なパーツだ。恋愛禁止という枷(かせ)を課すことで、可愛いアイドルに疑似恋愛の対象というプレミアムを植え付けることに成功している。
「恋愛禁止アイドルグループ」と「恋愛OKアイドルグループ」 、どっちが推せる?
「恋愛禁止アイドルグループ」と「恋愛OKアイドルグループ」があれば、間違いなく前者の方が人気が出る。
理由は、恋愛OKアイドルは疑似恋愛の対象として成立しづらいからだ。ファンの方も男性の影を感じてしまうのでブレーキがかかりやすい。つまり、お金を落としづらい。
プライベートの交際を問題にしない寛容なファンも一定数はいるだろうが、マジョリティではない。アイドルグループとして頂点を目指すのならば、疑似恋愛を欲している層の獲得は不可欠だ。この層の熱量をなめてはいけない。
実際、恋愛OKと名言しているアイドルグループで、乃木坂や欅坂に匹敵するようなアイドルグループは存在していない。人気が下降気味のAKBグループにすら届かないのが現実だ。
ビジネス面からも、恋愛OKと公言するメリットは全くない。運営側がアイドルに指示しているかどうかにかかわらず、恋愛禁止グループであるという姿勢を見せることで、恋愛OKのアイドルよりも優位に立っていることは紛れもない事実である。
ファンは騙されたと感じている
一部のファンが、恋愛禁止ルールを破ったことを裏切りと感じる最大の理由はここにある。
恋愛禁止しているように見せる演出をしておきながら、疑似恋愛の対象になり得るメリットを存分に享受しておきながら、実際には恋愛禁止していない不誠実さに怒っているのである。騙されたと感じているのである。
「恋愛しながらアイドルをしたいのならば、最初から恋愛OKのアイドルグループに加入して活動してよ」と、膨大な時間とお金を費やしてきたファンが嫌味のひとつも言いたくなるのは当然だ。
恋愛禁止ルールの是非
恋愛禁止ルールに否定的なファンが、 恋愛禁止ルールを肯定するファンを責め立てるコメントをSNSで見かけることがある。
そのやり取りの中で、「男性スキャンダルが発覚しても、本当のファンならば応援するはず」という言葉をよく目にするがこれは正しいのだろうか? 「本当のファンならば応援するはず」という言葉は、言外に「今応援する姿勢を示していないあなたは本当のファンではない」という攻撃に他ならない。
暗黙の了解である恋愛禁止ルールを破ったアイドルを非難したファンは、「本当のファン」ではないのだろうか?
恋愛禁止ルールは暗黙のマニフェスト(公約)
選挙で例えてみよう。投票の際、人は自分と価値観が似ている立候補者に票を入れる。まったく同じ価値観の立候補者は存在しないので、掲げているマニフェスト(公約)を判断の目安とする。
立候補者が当選した後も投票者は立候補者の行動をしっかり見ている。公約を守らなかったり、より魅力的な公約を掲げる立候補者が出てくれば、次の選挙では違う立候補者に票を入れる。
アイドルとファンの関係は、立候補者と投票者の関係そのものだ。 容姿や振る舞いや恋愛禁止など(=公約)を見て「素敵だな、かわいいな」と感じたアイドルのファンになる(=票を入れる)。ファンになった後も、アイドルがスキャンダルを起こしたり(=公約を守らなかった)、より魅力的なアイドル(=魅力的な公約を掲げる立候補者)が出てくればそちらに乗り換える。
そう考えれば、暗黙の了解となっている恋愛禁止という公約を守らないアイドルからファンが離れていくのは自然なことだろう。
公約を守らない政治家を非難する投票者に対して、「本当の支持者なら応援するべき」と責め立てる人がいれば、おかしな人と言わざるを得ない。なぜなら、投票者がその政治家に一票を投じたのは、公約を守るという大前提が当然に存在するからだ。
公約反故しておきながら、その事実を無視して応援を強要することを大正義とする信念は、すでに宗教の教義の域に達している。右の頬を打たれたら左の頬を差し出せる者のみを選別する狂気の踏み絵に他ならない。
「本当のアイドルならば、ファンの気持ちを考えて恋愛しないのでは?」
「本当の~」という表現を使用している発言を見ると、脊髄反射で文章を書いているのだろうなと私は醒めてしまう。「本当のファンなら応援するべき」という言い回しは諸刃の剣だ。
なぜなら、「本当のファンなら厳しく叱るべき」「本当のファンじゃないからルール違反に怒りが湧かないのでは?」「本当のアイドルなら、ファンの気持ちを考えて恋愛しないのでは?」「本当のアイドルでないから、ファンの気持ちを考えずに男性スキャンダルを起こしてしまうのでは?」という「本当の~」を利用した反撃が簡単に成立してしまうからだ。
「本当の~」という言葉を多用する人は、相手に容易に反撃する手段を与えていることを自覚した方がいい。容易に反撃されるということは、そのロジックには欠陥があるということだ。
本当のファンかそうでないか区別する方法など存在しない。暗黙の了解である恋愛禁止ルールに違反したアイドルを守るため、自分の意見を正当化するために、思考停止状態で「本当の~」 発言を繰り返すファンは一度冷静になるべきだろう。
恋愛禁止ルールは「人権侵害」しているのか?
アイドルの恋愛禁止ルールが話題になる際に必ず出てくるのが、「恋愛禁止は憲法で保障されている基本的人権を侵害している。人権を尊重してアイドルの恋愛を認めるべき 」という意見だ。
恋愛禁止ルールは人権を侵害しているというが本当にそうなのだろうか? この件については私が何か言うよりも専門家の意見に耳を傾けたい。アイドルが恋愛禁止条項を破り契約違反による損害賠償請求をされた裁判について、弁護士が判例をもとに解説したページがあるので、気になる方はこちらの記事を読んで欲しい。
アイドルの恋愛禁止条項って法律的にどうなの?を弁護士が解説。【弁護士中野秀俊】
恋愛禁止条項を設けることに一定の合理性を認めている裁判所
恋愛禁止ルールを破った二人のアイドルの事例について目を通していただけただろうか?
1件目の訴えられたアイドルの行動はあまりにもひどく、運営に同情せずにはいられない。他のメンバーもグループ解散の憂き目にあってとばっちりを食っている。素人目に見ても頭を抱えてしまう内容なので、事務所側の損害賠償請求が認められている。
2件目は、逆に事務所側の損害賠償請求を認めない判決が出ている。事務所との契約よりもアイドルの自由な意思決定を尊重した判決だ。
一方では損害賠償請求が認められ、一方では認めらなかった。しかし、注目すべき点は判断が分かれたことではなく、どちらの判決においても契約に恋愛禁止条項を設けることに一定の合理性があると裁判所が認めている点だ。
禁止という表現を使っているから勘違いしてしまいやすいが、実際のところ恋愛禁止ルールは事務所とアイドル合意の上の演出にすぎない。
アイドル自身が望んでその環境に身を置き、恋愛禁止ルールで得られる利益を最大限享受している。恋愛OKという売り出しをしたら得られなかったであろう人気を獲得している。
アイドルと運営は、持ちつ持たれつの関係だ。契約に恋愛禁止条項を設けることに裁判所が理解を示したのも理解できる。
禁止しているのは恋愛ではなく恋愛スキャンダル
恋愛スキャンダルが出てしまうと、通常、アイドルの人気は下がる。上がることなどほとんどない。元AKB48メンバー指原莉乃のような例は稀有だ。
恋愛スキャンダルはアイドルにとって大きなマイナスなのである。とは言うものの、アイドルだって人間だ。たとえアイドル活動期間中であっても、人を好きになってしまうこともあるだろう。
人の感情を契約で抑えることはできない。恋愛感情を持たないように制限することなど誰にも出来ない。もちろんアイドルだって恋愛感情を持つことはできる。ただし、恋愛感情と恋愛スキャンダルはまったくの別物だ。
「恋愛感情を持つことは自由だが、恋愛スキャンダルは起こさないでください」というのが事務所や運営の言い分だろう。やるなら見つからないように上手くやってねということだ。見つからなければ無いのと一緒である。
アイドルは恋愛解禁なんて求めていない
「恋愛禁止は憲法で保障されている基本的人権を侵害している。人権を尊重してアイドルの恋愛を認めるべき 」という言葉は、恋愛禁止ルール肯定派のファンにではなく、恋愛禁止ルールを暗黙の了解として容認しているアイドルと運営に向けられるべきものだ。
恋愛禁止ルールの存在により、アイドルは自身の価値をより高めることができ、運営には利益がもたらされている。彼らは恋愛禁止ルールによって大きな果実を得ている。
憲法を最優先にして恋愛解禁という設定にしてしまうと、恋愛禁止ルール否定派は残るが、恋愛禁止ルール肯定派の離脱は避けられないため、人気はほぼ確実に下降するだろう。そもそも売りだし方から変えていかなければならない。それはアイドルと運営にとって避けたい事態に違いない。
アイドルは恋愛解禁なんて求めていない。アイドルが求めてもいない権利について声高に叫ぶことが、結果として応援するアイドルの首を絞める行為に繋がっていくのだから皮肉なものだ。
「アイドル恋愛禁止」の文化が変わらない理由
アイドル恋愛禁止の文化は変わっていくのだろうか? 結論から言うと、変わらないだろうと私は予想している。
なぜなら、最初に説明した通り、恋愛禁止はアイドルが自分の価値を高めるための演出であるからだ。運営もアイドル本人も恋愛禁止を打ち出した方が得だと判断しているからこそ、今の現状がある。
恋愛禁止ルールが無くなることがあるとすれば、恋愛禁止ルールを窮屈に感じてオーディションに女の子が集まらなくなったり、または、人権意識が社会的に非常に高まり運営に対する非難が看過できないほど大きくなったときくらいだろう。
とはいえ、NGT48の例を見ても明らかなように、アイドルグループ運営と世間の価値観のギャップは非常に大きい。現状うまく回っている恋愛禁止ルールをやめる気などサラサラないだろう。もちろん、恋愛禁止を明示して波風を立てるようなことはせず、暗黙のルールとしてグレーゾーンに残しておくことに抜かりはない。
ファンとの間では恋愛禁止を匂わせて呼び水とし、外部から人権問題だと騒がれた場合は「恋愛禁止ルールなんて無い」と突っぱねれば良いというのが運営側の本音だ。白でも黒でもなく灰色でビジネスをすることを強く望んでいる。恋愛禁止ルールをグレーゾーンに置いておくことで、良いとこどりが出来る。
具体的な名前を出すことはしないが、「恋愛禁止なんて言っていない」と開き直った総合プロデューサーには恥を知れと言いたい。平時は恋愛禁止のイメージで収益をあげておきながら、外部から激しく批判されれば「そんなルールはない」と開き直り、状況によって都合よく立ち位置を使い分け暴利を貪る姿にファンは辟易している。
AKB総選挙で起きた結婚宣言やNGT48グループ内で起きた隠蔽行為は、日本を代表するトップアイドルグループが、実は著しくモラルが崩壊した環境であることを白日にさらした。自浄作用など期待できない。
これまでもこれからも、グレーゾーンの中で暗黙の恋愛禁止ルールは続いていくのだ。
まとめ「恋愛禁止ルールでもっとも得をしているのはアイドル自身」
「なぜアイドルは恋愛禁止なのか?」という疑問の答えは、「恋愛禁止というラベルを貼った方がアイドルとしての商品価値が上がって得だから 」だ。
恋愛禁止ルールで一番得をしているのはアイドル本人だ。恋愛禁止ルールはアイドルの魅力をより高めるための演出なのである。普通の少女を一夜にして特別なアイドルに変えてくれる魔法なのだ。
恋愛禁止のアイドルグループを選んだのは彼女自身だ 。 彼女があの日憧れたアイドルも、今の彼女自身のように恋愛禁止ルールを自身に課すことで己の価値を高めていた。きっとキラキラと眩しく輝いていたことだろう。その幻想に彼女は一体何を見ていたのか。
アイドルの舞台からはいつでも自分の意思で降りることができる。恋愛禁止という演出が肌に合わないのならば、恋愛禁止アイドルグループは彼女には向いてなかったのかもしれない。
今吹いている逆風は、スキャンダル発覚前までは背中を押してくれていた追い風だったものだ。その風こそが、アイドルが恋愛禁止ルールで享受していた魔法そのものなのである。
余談『スキャンダル後が魅力的なアイドルもいる』
平成女性アイドルスキャンダルの中でも十本の指に入るであろう乃木坂46松村沙友理スキャンダル。
女性アイドルが既婚者と不倫。どうやっても助からない一撃で終わるスキャンダル。本人は相手が既婚者だとは知らなかったと弁明したが、知っていようが知っていまいがアイドルとしてはもう終わり。さよなら松村沙友理。おそらく誰もがそう思ったはず。
しかし、松村沙友理さんはすごかった。卒業をかろうじて回避すると、そこから劇的な復活劇を遂げて、現在では乃木坂46に欠かせないメンバーの一人として存在感を発揮している。
私はブレ気味な齋藤飛鳥推しなので、実はさゆりんごも大好きだ。まっちゅんが不倫スキャンダルで卒業していたら、「教習所で見せられる保険加入のビデオ」のコミカルな演技も見ることはできなかった。
写真集も然りだ。乃木坂御三家の一角でありながら2017年12月まで写真集が発売されなかったのは、確実にスキャンダルの影響だろう。
スキャンダルが原因で卒業したり解雇されたりするアイドルもいれば、一方ではそのスキャンダルをバネにしてより人気を獲得していくアイドルもいる。不思議だわ~(*´▽`*)